さかながしゃべる!

ラブライバーです。たま〜に更新します。

TAKUYAさんがラブライブ!サンシャイン‼︎に参加することの何が凄いのか?


あぁ 夢は いつまでも覚めない
歌う風のように……

 

もくじ

 

【はじめに】

こんにちは、ノットです!
早いもので、『Aqours 6th LoveLive! ~KU-RU-KU-RU Rock 'n' Roll TOUR~ 〈SUNNY STAGE〉』から2週間が経ちました。あなたはいかがお過ごしでしょうか? 私は、来る6月の追加公演〈WINDY STAGE〉に浮き足立つ日々を過ごしています。

今回のライブといえば、“シリーズ初となる2度目の東京ドーム公演” “浦の星交響楽団の出演” など、様々な“特別”を従えています。中でも、『ナゴヤドームベルーナドーム→東京ドーム』の行程は、2020年に中止となった、幻のドームツアーの再現でもあります。長きにわたる旅路の果てに、新たな約束が交わされた瞬間、走馬灯にも似た想いが込み上げた方も多かったのではないでしょうか。私もその1人です。失われた夢を取り返すAqoursちゃんを、心から誇らしく思います。

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出典: https://www.lovelive-anime.jp/uranohoshi/sp_6thlive_w.php


ところで、そんな夢の奪還劇について、先日、こんな情報が発表されました。


テーマソングの『なんどだって約束!』の、試聴動画の作曲者の欄を目にしたとき、私は思わず飛び上がってしまいました。


CYaRon! 1stアルバム『ある日…永遠みたいに!』に携わった、元JUDY AND MARY のギタリスト・TAKUYAさんが、今回のテーマソングにも参加されることが分かったのです。この時の衝撃は凄まじく、当時の私は、まるで太鼓の中にいるかのように、脈音が全身を叩きつけるのを感じていました。早い話、私は有頂天だったのです……傍目には理解し難いほどに。


1. TAKUYAさんに拘る理由はなぜか

1.1 『なんどだって約束!』の製作チームにはどんな人物がいるのか

TAKUYAさんのみならず、『なんどだって約束!』の制作チームには、錚々たる顔ぶれが揃っています。作詞の畑亜貴さんは言わずもがな、作曲陣の皆さんは『CYaRon!』『Guilty Kiss』の1stアルバムにも携わられています。2枚ともリリースは昨年ですから、活躍も記憶に新しいですね。ですが、これらは、彼等の活動の極々一部に過ぎません。本題に入る前に、まずはTAKUYAさん以外の作家陣の凄さを紹介しておきましょう。以下に載せるのは、御三方の代表的な参加作品です。

MEGさん
Fantastic Departure!/Aqours(共作曲・編曲)
Introduction/THE ORAL CIGARETTES(共編曲)
僕が僕じゃないみたいだ/Six TONES(共編曲)

Kanata Okajimaさん
DREAMY COLOR/Aqours(MEGさんと共作曲)
Love U my friends/虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会(作詞)
もっとね!/松浦果南(cv. 諏訪ななか)(作曲)
Show Me What You've Got/安室奈美恵(作詞・バックコーラス)

本間昭光さん
降幡愛(プロデュースを担当)
ポルノグラフィティ(作曲を担当)
いきものがかり(編曲を担当)
松田聖子(編曲を担当)



And more….


全てはとても載せきれないので、今回は一例の紹介に留めさせて頂きます。この時点で既に、日本を代表するアーティストの名前が並んでいますよね。御三方もまた、そんな“国民的アーティスト”に楽曲提供をしているのですから、彼等同様、日本のトップクリエイターといえます。こう見ると、『なんどだって約束!』の制作チームは、とんでもないドリーム集団ですね(もっとも、裏を返せば、Aqoursちゃんも上記の“国民的アーティスト”達の仲間入りを果たしているということでもあります。なんだか感慨深いですね)。


1.2 TAKUYAさんにこだわるのはなぜか

さて、御三方の凄さを確認したところで、話を本筋に戻しましょう。先ほど私は、「TAKUYAさんがラブライブ!サンシャイン‼︎に参加することに歓喜した」と話しました。TAKUYAさんといえば、90年代を代表するバンド『JUDY AND MARY』のギタリストで、現在まで聴き継がれる名曲をいくつも世に出した、稀代のロックスターです。バンド名は知らなくても、『そばかす』『Over Drive』など、楽曲を聴いたことはある…という方も多いでしょう。

バンドの活動期間は1992-2001年と短いものの、CDの総売上は1400万枚以上を記録し、2008年にオリコンが行った『再結成して欲しいバンドランキング』では総合一位を獲得するなど、今なお高い人気を博しています。要は凄いのです。ですが、ここまで読んで下さっているあなたは、TAKUYAさん以外の作家たちも超一流であることを承知済みでしょう。あなたは、こう思われたのではないでしょうか。「なんでTAKUYAさんだけなのか?」

極論、売れっ子だとかレジェンドだとか、そんなのはTAKUYAさんに限った話ではありません。皆そうです。ではなぜ、わざわざこの人だけを取り立てて特別視するのでしょうか。そこには、他ならぬTAKUYAさんを待望していた理由、この人でなくてはならない、明確な根拠があります。つまり、私が “TAKUYAさんがラブライブ!サンシャイン‼︎に参加することに歓喜した” 理由は、“JUDY AND MARYラブライブ!サンシャイン‼︎の世界観を体現するバンドだったから” です。

次の項目からは、邦ロック界のレジェンドと、アニメ界の生ける伝説の、奇妙な絆を紐解いていきましょう。


2. ふたつの世界観

2.1 Aqoursらしさとはなにか

タイトルにもある通り、この記事の目標は、“TAKUYAさんがラブライブ!サンシャイン‼︎にとって待望の存在である理由” を解き明かすことにあります。一見、縁もゆかりもなさそうな両者の “繋がり” を見出すため、ここからは、それぞれの根幹をなす世界観──すなわち “Aqoursらしさ” “JUDY AND MARYらしさ” を見ていきます。

なお、今回に限らず、あるものの “◯◯らしさ” には、見る人の数だけ答えがあります。その為、ここでは、なるべく主観に頼らず、客観的な情報を用いて彼等・彼女等の何たるかを話していけたらと思います。

まずはAqoursの “Aqoursらしさ” について。私は、これは “少女の二面性” だと思います。二面性とはすなわち、表と裏、陽と陰が背中合わせな間柄のことです。私は、輝きを求める彼女たちが身を置く、“スクールアイドルという世界” “彼女たち自身の心の在り方”…この2つに、“二面性” を感じています。順番に見ていきましょう。


2.2 スクールアイドルの二面性とはなにか

スクールアイドルの最高峰とも言うべき大会に、『ラブライブ!』があります。絢爛豪華な舞台で、選りすぐりのスクールアイドルたちが火花を散らすこの大会。作品によって設定はまちまちですが、いずれにおいても、決勝に駒を進めるには、とてつもなく狭い門をくぐらなければならないことが描写されています。

エントリーしたグループの中から、
このスクールアイドルランキングの
上位20位までがライブに出場。
ナンバーワンを決める大会です!
小泉花陽 (ラブライブ!1期7話より)

7236…なんの数字か分かります?
去年エントリーしたスクールアイドルの数ですわ
黒澤ダイヤ (ラブライブ!サンシャイン‼︎ 1期8話より)


20/7236。とんでもない倍率です。
参考までに、日本一の若手漫才師を決める大会『M-1グランプリ2020』では、決勝進出の10枠をかけて、5081組のコンビがエントリーしています。これとほぼ同規模と思うと、『ラブライブ!』に勝ち進むことが、どれだけ大変かが分かるでしょう。華やかさとは裏腹に、そこでは、“普通の女の子” には過酷すぎる程、熾烈な競争が繰り広げられているのです。

また、“学校でアイドルをする” という性質上、スクールアイドルの中には、Aqoursのように学校全員の期待を背負っているものも少なくありません。そういった者たちにとって、否が応でも勝敗・優劣が決まる大会は、二度と立ち上がれない傷を負わせる “断罪の儀式” ともいえるのです。華やかさと過酷さ。これが、私が考える“スクールアイドルという世界”の二面性になります。

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出典: ラブライブ!サンシャイン!! #8「くやしくないの?」

 

2.3 Aqours自身の二面性とはなにか

このような、煌びやかで残酷な世界に身を置く千歌たち。彼女たちもまた、“元気さの中にどこか影を秘めた二面性の持ち主” といえます。それが顕著にあらわれている一例に、彼女たちがラブライブ!勝戦で披露した楽曲『WATER BLUE NEW WORLD』があります。

夢は夢のように過ごすだけじゃなくて
痛みかかえながら求めるものさ
WATER BLUE NEW WORLD/ Aqours


『スクールアイドル Aqours』として足掻き続けた彼女たちは、皆の夢を叶える為・現実に抗う為に何をすべきかを探し続けており、遂に辿り着いた回答というのがコレでした。泥まみれというより、もはや傷まみれでしょう。“心血を注ぐ” なんて言葉がありますが、この歌詞に限って言えば、文字通り、生き血を注いだペンで書き上げたのではないかと思わせる程の迫力があります。

そして、皆の夢とはご存知の通り “統廃合の決まった浦の星女学院の名前を、ラブライブ!の歴史に刻む” ということです。この統廃合は、『TVアニメ』『電撃G'sマガジン』『漫画版』など、あらゆるメディアに共通する、極めて重要な設定となっています。アニメに限らず、統廃合は、心身を引き裂かれるくらい強烈な痛みを伴って描かれています。ここでは、『漫画版 ラブライブ!サンシャイン!!』から、とある場面を紹介しましょう。

もうなにをするのも どうしようもなく
人数が足りないんだよ この町(…)
あの子たちが私たちくらいの歳になる頃には
もう浦女はなくなってて 地元の高校に通える子も
いなくなっちゃうんだよね(…)
そう思うと せめて今日はにぎやかにしてあげたいなって
高海千歌 (ラブライブ!サンシャイン!! 第8話より)


少し補足をすると、この台詞は、千歌が梨子を『内浦春のビッグイベント 内浦こども浜祭り』に連れて行った際に発したものです。

アニメと異なり、漫画では、物語開始時点で浦女の廃校が決定していました。明言こそされていないものの、その理由は恐らく “入学希望者の不足” で、それを裏付けるように、劇中でも、千歌たちの担任が「人数が減り続ける一方」と話しています。

この祭りも人口減少の煽りを受けており、参加者の小学生たちは、『お店屋さん』と『お客さん』を交代で代わらなければなりませんでした。そうでもしないと、イベントが成り立たなかったのです。千歌は、そんな祭りの現状を知っており、後輩たちに想い出を残してあげたい一心で、転校してきたばかりの梨子を連れ出したのでした。

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出典: 公野櫻子, おだまさる(2017).  ラブライブ!サンシャイン!!② p.42

 

統廃合は、いつか必ず迎える、逃れようのない結末です。ですが、それは決して未来の出来事──今と切り離された事象ではありません。すなわち、この瞬間にも千歌たちは、人のいない寂しさや、一緒にいる友達とバラバラになる寂しさを、切実に感じて生きているのです。寂しさはあまりに大きく、あまりに身近にあるせいで、目を背けることも出来ません。どんなに辛くても、現実と向き合うほかありません。つまり、彼女たちは、夢みる少女ではいられないのです。

このように、千歌たちは劇中で様々な痛みを知り、今まさに子どもから大人になろうとしています。彼女たちは、昼と夜が重なる一瞬、青春の夕暮れ時を生きているのです。私はこの “スクールアイドルという世界”と“彼女たち自身” の “二面性” こそが、ラブライブ!サンシャイン‼︎らしさ、ひいては作品の世界観であると考えています。

そして、この性質は、JUDY AND MARYの世界観を語る上でも必要不可欠な、最重要ワードとなっています。なぜなら『JUDY AND MARY』というバンド名は、他ならぬ “少女の二面性” に由来しているからです。


2.4 JUDY AND MARYらしさとはなにか

JUDY AND MARYは、

の四人からなる、日本のロックバンドです。

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※ 左から, 恩田, TAKUYA, YUKI, 五十嵐 (敬称略)


バンド名の由来について、リーダーの恩田さんは以下のように語っています。

前向きになれる時とそうでない時を、
ポジティブなJUDYとネガティブなMARY
という女の子の名前に伏せて、
ポジティブな面もネガティブな面も
ちゃんと見つめて音楽を作っていきたいと思った
出典: ミュージックステーション(1994. 7. 11放送回より、一部改変)


恩田さん曰く、対をなす感情を女の子の名前に伏せたのは、ボーカルのYUKIさんが女性だったからとのこと。この“ポジティブとネガティブを併せ持った女の子” というテーマは、まさにAqoursの持つ “少女の二面性” とピッタリ一致しています。

JUDY AND MARYは、9年間という短い活動期間の中で、音楽性を目まぐるしく変化させています。特に、初期と後期は、全くの別物と言っていいでしょう。ですが、上記の根本的なテーマに限っては、最後までブレることなく、一貫して音に込められています。では、二面性を持った曲とは、具体的にはどんな曲なのでしょうか?


3. 二面性を持った楽曲とはなにか

3.1 初期のオススメ楽曲~J.A.M.からORANGE SUNSHINEまで

ここからは、90年代を駆け抜けたバンドの歴史、もとい、彼等の時代ごとの音楽性・代表曲を辿っていきます。

JUDY AND MARYは、短い活動期間の中で、絶えず音楽性を変化させ続けたバンドです。よって、ここでは、音楽の性質をもって、彼等の活動期間を前期、中期、後期の3つに分割。時代毎の特徴やオススメの楽曲を紹介していこうと思います。なお、オススメ楽曲は、各時代6曲ずつを予定しています。例によって、初期から順に見ていきましょう。

この頃の音楽性の特徴は、一言でいえば “両極端” です。少女の “ポジティブ・ネガティブ” は、曲ごとに独立して表現されています。

初期のアルバムでは、“楽曲Aは底抜けに明るいのに、楽曲Bは打って変わって焦燥感を掻き立ててくる(あるいは、しっとり聴かせるバラードが展開される)” といった構造が多くみられます。もちろん、どんなアーティストのどんなアルバムでも、ポップとバラードが入り混じること自体は、特別珍しくありません。ただ、彼等の初期の作品群に関しては、曲ごとの旋律の振れ幅が、殊更に大きいように感じます。感情が、激しく浮き沈みしているとでも言うのでしょうか。

このような手法が用いられる理由について、個人的には、まるで異なる曲調の楽曲を代わるがわる奏でることで、“少女の気性の激しさ” “危なっかしいまでの気まぐれさ” を、効果的に表現しようとしたからだと考えています。電球がビカビカ明滅するように、ポジティブとネガティブを行ったり来たりしているイメージです。

そんな初期のオススメ楽曲は、次の6曲です。

  1. BLUE TEARS
  2. DAYDREAM
  3. Hello!Orange Sunshine
  4. Radio
  5. 小さな頃から
  6. 自転車


これらの楽曲はすべて、『COMPLETE BEST 「FRESH」』で聴くことが出来ます(奇しくも、曲順まで一緒に収録されています)。6曲を性格ごとにまとめると、

【ポジティブ】
・Hello!Orange Sunshine
・Radio
・自転車

【ネガティブ】
・BLUE TEARS
・DAYDREAM
・小さな頃から


と、丁度半々で分けることが出来ます。中でも『DAYDREAM』は、先述の焦燥感を掻き立てる楽曲に該当します。この曲について、作曲者の恩田さんは、『FRESH』のライナーノーツにて、「追いつめられているような緊張感と気持ちが、一番出ていた頃の曲」と綴っています。急かすようなアップテンポと、悲壮感漂う歌詞が絶妙にマッチした、初期を代表する名曲と言えるでしょう。

道端の花をにぎりしめたまま
こわれてく心
どうか泣かないで…
DAYDREAM/ JUDY AND MARY


それとは対照的に、『自転車』は、先の底抜けに明るい楽曲にあたる、ポジティブさ全開のポップ・ナンバーです。爽快なメロディと無邪気な歌詞からは、女の子のみずみずしさが、眩しい位に伝わってきます。また、『ラブライブ!サンシャイン!!』︎と絡めた話をすると、私は個人的に、この曲を渡辺曜のイメージソングに位置付けています。彼女の天真爛漫な部分が遺憾なく発揮された『突然GIRL』と、併せて聴いてほしい一曲です。オススメ!


3.2 中期のオススメ楽曲~MIRACLE DIVINGからTHE POWER SOURCEまで

この頃の音楽性の特徴は、なんといっても “ポジティブとネガティブの融合” です。両者を交わらないもの、二者択一のものとして表現し分けていた初期とは一線を画す、転機が訪れたのです。転換の旗手を務めたのは、のちにファンの人気投票で1位を獲得する名曲『Over Drive』でした。

Over Drive
作詞: YUKI 作曲: TAKUYA

もっと遊んで 指を鳴らして 呼んでいる声がするわ
本当もウソも 興味がないのヨ
指先から すり抜けてく 欲張りな笑い声も
ごちゃまぜにした スープに溶かすから

夜に堕ちたら ここにおいで
教えてあげる 最高のメロディ

あなたはいつも ないてるように笑ってた
迷いの中で 傷つきやすくて
地図を開いて いたずらにペンでなぞる
心の羽根は うまく回るでしょ?

音に合わせて 靴を鳴らして
あたしだけの 秘密の場所

走る雲の影を 飛び越えるわ
夏のにおい 追いかけて
あぁ 夢は いつまでも 覚めない
歌う 風のように…

夜に堕ちたら 夢においで…
宝物を 見つけられるよ…
信じてるの…

愛しい日々も 恋も 優しい歌も
泡のように 消えてくけど
あぁ 今は 痛みと ひきかえに
歌う 風のように…

走る雲の影を 飛び越えるわ
夏の日差し 追いかけて
あぁ 夢は いつまでも 覚めない
歌う 風のように…


歌詞で目を引くのはやはり、“明らかにネガティブな” フレーズの数々でしょう。傍線を引いた箇所がそれにあたります。本来ならば、これらの “身を切るような痛み” を綴った歌詞はすべて、疾走感のある曲調とは相反するものです。矛盾しているとも言えるでしょう。ですが、そんな理屈など吹き飛ばすかのように、この曲は、邦楽史に燦然と輝く金字塔として君臨しています。

作曲者のTAKUYAさんは、『FRESH』のライナーノーツにて、「この曲をつくったあと、興奮して散歩したのを忘れない」と当時を回顧していますが、私も、この曲を初めて聴いたとき、頭が割れるような衝撃を受けたのを覚えています。

そんな中期のオススメ楽曲は、次の6曲です。

  1. Over Drive
  2. ステレオ全開
  3. そばかす
  4. クラシック
  5. The Great Escape
  6. エゴイスト…?


Over Drive』を筆頭に、バンドの代表曲を並べています。特に、『そばかす』は、TVアニメ『るろうに剣心-明治剣客浪漫譚』のOPに起用されたこともあり、頭ひとつ抜けて高い知名度を誇っていますね。この曲も、『Over Drive』同様 “ポジティブとネガティブが融合した曲” のひとつです。

ラブライブ!サンシャイン!!』における『P.S.の向こう側』『Pops heartで踊るんだもん!』など、明るい曲調と、曲調とは正反対の切ない歌詞が特徴の楽曲が好きな方には、特に刺さるのではないでしょうか。

それに加えて、『クラシック』は、上の2曲とは異なる意味で革新的な楽曲です。

この曲は、別れが決定的となった恋人が、互いを想いあっていた頃を懐かしむ、いわゆる失恋ソングです。普遍のテーマを扱うこの曲の“新しさ”は、歌詞に極めて高水準の『反実仮想』を盛り込んでいる点にあります。

反実仮想とは、事実に反することを仮定して想像する、英語の仮定法にも似た修辞技法です。主に「もしも◯◯だったら…だろうに」の形で使用し、実現不可能な願いを書くことによって、そうでない現実の哀しさを際立たせます。『クラシック』でも、この反実仮想が使用されているのですが、用いられ方は、まさに常軌を逸しています。

今アツイキセキが この胸に吹いたら
時の流れも 水の流れも 止まるから
クラシック/ JUDY AND MARY


ここでは、1行目が“仮定”、2行目が “想像” にあたります。重要なのは、時の流れと水の流れが「止まる」という部分です。本来ならば、破局を免れない恋人が望む “実現不可能な願い” といえば当然、二人の復縁でしょう。すなわち、時間が “止まる” のではなく “戻る” ことで、両者の関係が修復されるのを願うはずなのです。にもかかわらず、この曲ではそれを行いません。あくまで、時間も水も “止まる” に留まっています。

これが意味するのは、“修復を願いすら出来ない程、2人の仲が冷めきっている”ということ。つまり、『クラシック』は、手の施しようが無いまでに破綻した関係を、たった1つの言葉遣いで表現してしまったのです。圧巻ですね。この、通常の更に上を行く形で駆使される反実仮想は、先の “ポジティブとネガティブの融合” に並ぶ発明であると思います。

また、ここまでは目新しさばかりに注目してきましたが、中期には、当初の『突き抜けたポジティブ・ネガティブ』という傾向を更に強めた、先鋭的な楽曲も数多く存在します。それぞれ、『ステレオ全開』『The Great Escape』は前者の、『エゴイスト…?』は後者の、特にオススメな名曲です。

『ステレオ全開』『エゴイスト…?』は、ファン投票によるベスト盤『The Great Escape -COMPLETE BEST』、『The Great Escape』は、4thアルバム『THE POWER SOURCE』で聴くことが出来ます。ものすごくややこしいですが、そこはご愛嬌で(笑)。

この口唇が いつか疲れて 声がかれても
歌ってあげるわ その胸に届け
ステレオ全開/JUDY AND MARY

Yes 高い空! 青い海! 澄んだ空気!
思いきり深呼吸
自由が生まれる瞬間に 深く礼をしよう!
The Great Escape/JUDY AND MARY

落ちかけたマニキュアが 気にもならないくらい
本当は苦しいの 知らないことばっかり……
エゴイスト…?/JUDY AND MARY

 


3.3 後期のオススメ楽曲~POP LIFEからWARPまで

この頃の音楽性は、一言でいえば “滅びの美学” です。

滅びの美学とは、“個人や集団がみせる、散り際の美しさ”、もしくは “永遠に失われるものの、束の間の美しさ” を指す言葉です。詳しくは後述しますが、JUDY AND MARYの6thアルバム『WARP』は、解散を前提に制作されたラストアルバムでした。“終わり” を見据えてひた走る彼等の姿には、とりわけ統廃合決定後の千歌たちと重なる部分が多くあります。

両者の“繋がり”をより深く感じるために、ここでは、当時の彼等を取り巻いてきた環境と、バンド解散までの一部始終を紹介しておきましょう。

時間は遡り、中期のアルバム『MIRACLE DIVING』『THE POWER SOURCE』は、いずれも大ヒットを達成します。2022年3月現在、アルバムはそれぞれ約100万枚、300万枚という驚異的な売上を記録しており、JUDY AND MARYは、一気にスターダムを駆け上がりました。1996年には、初の紅白歌合戦出場も果たし、バンドは、名実ともトップアーティストの仲間入りを果たしたのでした。

ですが、人気絶頂を迎えるその裏で、彼等は、ボーカルのYUKIさんの喉の手術や、5thアルバム『POP LIFE』の難航など、いくつもの受難に見舞われます。彼等は元々、アルバムを作るときは毎回、「ここで終わっても良い」と思う程に全力を注ぐ制作体制を取っていましたが、それは、言い換えれば無茶の連続でした。そして、難産の末に『POP LIFE』を発売した1998年の年末、限界を迎えたバンドは、その活動を休止。1年の充電期に入るのでした。

バンドは2000年に活動再開を宣言するものの、以降の活動は、いわゆる “完全復活” ではなく、むしろ “ファンへのけじめ” としての意味合いを強く持っていました。というのも、彼等は既に解散を決めていたのです。メンバーは、このまま無理に活動を続けるよりも、潔く区切りを付ける方を選び、残された時間を “バンドをちゃんと終わらせる” 為に使うことにしたのでした。

かくして、2000年2月より、先行シングル『Brand New Wave Upper Ground』の発売を皮切りに、解散を前提にした6thアルバム『WARP』の制作が開始されます。そして、活動再開から1年が経った2001年の1月。彼等は『WARP』を完成させ、アルバムの発表と同時に、正式に解散を発表します。その後、同年の3月8日、出来たてのアルバムを携えたライブ『WARP TOUR』の千秋楽を以て、JUDY AND MARYは解散しました。ラストライブの会場は東京ドーム。彼等にとって2度目の東京ドーム公演でした。

さて、このような経緯もあり、彼等の後期の音楽からは総じて、そこはかとない終末感が漂っています。ポップだろうとバラードだろうとお構いなしに、破滅的なオーラがまとわり付いているのです。そんな、“二面性の極致” とも取れる後期のオススメ楽曲は、次の6曲です。

  1. 散歩道
  2. ステキなうた
  3. LOVER SOUL
  4. Brand New Wave Upper Ground
  5. mottö
  6. ひとつだけ


※挙げた楽曲の大半はベスト盤で聴けますが、
『ステキなうた』だけは、オリジナルアルバムでしか聴くことが出来ませんので注意ください
※ここには載せていませんが、『ひとつだけ』に関しては、『Suger cane train』『ガールフレンド』と併せて聴くことをオススメします

前半の3曲は5thアルバム『POP LIFE』に、後半の3曲は、6thアルバム『WARP』にそれぞれ収録されています。

JUDY AND MARYは、メンバー全員が曲を作れる類稀なバンドでした。中期までに紹介した楽曲は、全て恩田さんかTAKUYAさんが手掛けたものでしたが、『散歩道』は、ドラマーの五十嵐公太さんが作曲を担当しました。

趣旨からはやや逸れますが、この『散歩道』は、全体を通して牧歌的な雰囲気に溢れる名曲です。四季折々の要素を盛り込んだ歌詞からは、パステルカラーの情景や、心の原風景が連想されます。開放的な曲調も相まって、聴くと思わず外を歩きたくなるような一曲に仕上がっています。

なお、バンドはこの曲で2度目の紅白歌合戦出場を果たしており、作曲者の五十嵐さんも、『FRESH』のライナーノーツにて「自分が一番驚いてるさっ。こんなすげえ曲を書けたことにね」と述べています。

続く『ステキなうた』『LOVER SOUL』は、バラード調のロック──いわゆる『ロックバラード』です。前者の『ステキなうた』は、バンドにおいて、恩田さんが最後に手掛けた楽曲でもあります。

この曲は、曲調自体は比較的明るいながらも、楽器隊が奏でる乾いた音色からは、どこかあっけらかんとした印象を受けます。そして、曲を聴き終える頃には、今年初めての冬風が吹き抜けた時のような、漠然とした虚しさ・喪失感を感じるのです。“ポジティブな面もネガティブな面もちゃんと見つめて音楽を作って” きた恩田さんの、集大成と言うべき秀作。ベスト盤には未収録ですが、是非とも『POP LIFE』でお聴き頂ければと思います。

あの優しいうたは なぜ哀しくなるんだろう?
空は茜色に染まってく
潮風が冷たい海辺
ステキなうた/JUDY AND MARY


さて、長らく続けてきた楽曲紹介もいよいよ大詰め。最後に紹介するのは、6thアルバム『WARP』のオススメ楽曲です。

『ステキなうた』で感じた漠然とした喪失感は、ついに、歌詞という目に見える形で聴き手の前にあらわれます。喩えるなら『WARP』は、緞帳を下ろし始めてから、幕が完全に閉じるまでの刹那を切り取ったようなアルバムです。Aqoursが、『WONDERFUL STORIES』で物語に幕を下ろしたように、彼等は、アルバム全部を用いて、自身のキャリアに終止符を打ったのです。それは、活動再開後に初めてリリースした『Brand New Wave Upper Ground』でさえ、例外ではありませんでした。

この曲には、今後バンドが迎える結末を暗示するかのような歌詞が、至る所に散りばめられています。

2人で夢を見ている 胸を痛めて揺れてる
愛しい日々は旅を終えて赤道線の上
Brand New Wave Upper Ground/ JUDY AND MARY

曖昧なままで ここまで泳いできたけど
つないだ指先 未来教えてくれるから
Brand New Wave Upper Ground/ JUDY AND MARY

振り向かずに行くわ シャツのすそ はためかせて進め
Brand New Wave Upper Ground/ JUDY AND MARY


次の『mottö』は、俗に『TAKUYA節』と呼ばれる、奇抜なコード進行が炸裂した楽曲です。この曲では、全楽器隊が、ソロパート並みの演奏を全編に渡って続けます。私の軽音楽部のリア友をはじめ、ギター弾きはしばしば、「JUDY AND MARYは難しい」と言うのですが、この曲は、素人の私でさえ言葉の意味が分かる程、べらぼうに高い難易度を誇っています。

また、同じくTAKUYAさんが手掛けた、『CYaRon!』の『Whistle of Revolution』は、まさに『ラブライブ!版 mottö』といえる楽曲です。ハチャメチャさから、理解を超えた超絶技巧まで、あらゆるイメージを共にしています。

そして、本記事の締めくくりを飾る曲にして、私が最も愛する楽曲。それが『ひとつだけ』です。この曲は、「全オリジナルアルバムを通じて曲順最後の曲」で、“疾走感” と “切なさ” の二面性を最高レベルで両立させた、永久不滅の大傑作・バンドのマスターピースです。

この曲にはいくつかのバージョンが存在しますが、特にオススメなのは『WARP』で聴ける『ひとつだけ -ver. WARP-』です。このバージョンでは、大サビと共にギターの音色が抜けた後に、インスト楽曲の『WARP』が流れます(ややこしいんですが)。このインスト楽曲は、それまでアルバムの世界に引き込まれていた聴き手を、逆に、現実に引き戻す役割を担っています。

楽曲としての『WARP』は、時間にして1分にも満たない短尺の曲です。ですが、その体感時間は、一瞬のようでもあり、同時に、極めて膨大なようでもあります。喩えるなら、SF映画スターウォーズ』に登場する超高速航法『ハイパードライブ』に乗ったような、極限まで圧縮した永遠を泳いでいる時みたいな、何とも不思議な気分になるのです。

そして、得もいえぬ余韻を残して『ひとつだけ』は終わり、ロックバンド『JUDY AND MARY』は、ここに完結を迎えます。“少女の二面性”を、最後まで描き続けた9年間でした。

あたしがもし咲いたら 君の手で照らして
あたしがもし泣いたら 君の唄で空を青くさせて
ひとつだけ/ JUDY AND MARY

 

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出典: ラブライブ!サンシャイン!! 2nd Season #13「私たちの輝き」


【おわりに】

いかがだったでしょうか?
今回は、『ラブライブ!サンシャイン‼︎』『JUDY AND MARY』に共通する世界観と、バンドの往年の名曲に着目し、“TAKUYAさんがラブライブ!サンシャイン‼︎にとって待望の存在である理由” を紹介させて頂きました。

結論として、私は、バンド活動を通して“少女の二面性” を描き抜いたTAKUYAさんは、『ラブライブ!サンシャイン‼︎』の世界観を、もっとも的確に、かつ、もっとも劇的に表現できる音楽家の1人であると考えています。

事実、TAKUYAさんが初めて携わった『ある日…永遠みたいに!』は、未知への“期待”と“不安”が見事に内包された、紛れもない『ラブライブ!サンシャイン!!』楽曲でした。バンド解散後もなお第一線で活躍し、研ぎ澄まされてきた、彼のセンスが爆発していたように思います。

そんなTAKUYAさんが、Aqoursの2度目の東京ドーム公演の、テーマソングに携わるのです。もう何度、試聴動画を見たか分からないし、今からフルが楽しみで仕方ありません。

彼は、Aqoursにどんな変化をもたらすんでしょう?
Aqoursはどうなっちゃうんでしょう?

最後まで読んで下さったあなたが、少しでも胸を躍らせて下さったのなら……彼等の音楽に興味を持って下さったのなら。私としては、こんなに嬉しいことはありません。改めて、長時間お付き合い下さいまして、ありがとうございました!

あぁ 夢は いつまでも覚めない!
歌う、風のように!

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ひとつだけ

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Special thanks
センケイさん、はまーさん、高校の同級生
記事の構成や表現について、素晴らしいご助言を下さいました。また、センケイさんは、私と同一のテーマでブログを書かれていますので、理解を深めたい方はぜひ足を運んでみて下さい! 皆さん本当にありがとうございました!

https://a16777216.hatenablog.com/entry/windy_and_mary


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